2015年10月 マツモトキヨシ子会社不正 在庫の水増し

 

 マツモトキヨシホールディングスの連結子会社である株式会社イタヤマ・メディコにて、在庫の水増し(約4億円)による不正が発覚しました。
 同社は、平成27101日に、マツモトキヨシの連結子会社であるマツモトキヨシ甲信越販売に吸収合併されています。合併した途端にその子会社で不正が発覚したことになります。
「なんとも不幸なことだ」と思うのか、又は「合併に当たって十分に調査したのか?」と思うのかは、情報の受け手次第でしょうか。
 会社の公表資料では、「現在、不正な会計操作の内容の詳細、影響金額を含め、真相解明のため鋭意調査中」とのことですが、現時点で判明している事実が公表されているので、以下で紹介します。

 「イタヤマ・メディコとマツモトキヨシ甲信越販売との統合処理の過程において、イタヤマ・メディコ社長の指示により、同社において、過去の営業損失発生の事実を隠蔽する目的で、複数年にわたり、在庫水増し処理により架空棚卸資産を計上するという不正な会計操作が行われていた可能性があることが発覚いたしました。」

 上記のうちキーワードは「統合処理の過程」「社長の指示」「損失発生の事実を隠蔽~在庫水増し処理」でしょう。以下、それぞれ簡単に解説します。

「統合処理の過程」
 合併した場合、会計単位が統合されます。今までは別々の会社であったのが、一つの会社になったわけですから、会計処理方法等について統一化を図る必要があるのです。そのため取引や勘定、開示等について、詳細な調査を行うことになります。昨今では会計ソフトを利用して処理することが通常でしょうから、これらのデータの移行も「統合化」の作業に含まれることでしょう。しかし、合併が決まってから会計処理の詳細な調査が初めて行われるわけではありません。合併の条件を検討する上でも、決算書の適否を検証しているはずなのです。下記で示すとおり、この疑問こそが今回の不正事例を大きなポイントでしょう。

「社長の指示」
 不正事例研究会でも幾度も扱っている事例ですが、「社長の指示」は統制できません。会社の管理プロセスの総称である「内部統制」は、社長の責任の下で構築されます。とすれば、社長の指示でこれを無効化することは容易に行いうるわけです。損失の計上を「かっこうわるい」と考えた社長の指示で粉飾(お化粧)をしていたことになります。化粧品を販売するだけでなく、その化粧を実行して事実を隠蔽するとは・・・。お化粧は身だしなみとしても、決算書のお化粧は図々しい限りでしょう。

「損失発生の事実を隠蔽~在庫水増し処理」
 売上総利益(粗利)は、売上高から売上原価を差し引いて算出されます。この売上原価は、期首棚卸資産に当期仕入高を加えて、期末棚卸資産を差し引くことで算出されます。ということは、の期末棚卸資産を水増しすればするほど、売上原価は過小に算出されることになります。この結果、在庫水増し利益計上(損失隠蔽)となります。こうした粉飾手法は、金額が増加していく傾向があります。「複数年」とあるのは、次第に粉飾金額が増加していったことが想定されるのです。いずれにしても、在庫の水増しは、粉飾決算の伝統的かつ基本的な手法といえるでしょう。

 合併や買収をする際には、その企業価値を適切に評価するためにデューデリジェンスを行うことが通常であり、その中で不適切な会計処理が明らかになることが一般的です。
 特に上場しておらず、会計監査を受けたことのない会社の場合、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に準拠して会計処理を修正すると、数多くの修正が必要となることが実状です。通常、監査を受けていない決算書は、信頼性の乏しいものと考えられているのです。
 それだけに、あくまで一般論として述べれば、非上場企業を吸収合併する場合には、相応に慎重にデューデリジェンスを行うはずなのです。今回の合併直後の子会社の不正発覚は、M&Aを進める企業にとって大きなリスクであることが改めて実感されたと思います。
 果たして事前にこうした粉飾が明らかにならなかったのか?とても大きな疑問ですが、イタヤマ・メディコについて、もう少し調査してみようと思います。いずれにしても今後の調査結果の報告を待ちたいと思います。Taku