2016年2月 監査法人の課徴金と日本公認会計士協会「会長通牒」

 2016年1月、東芝の監査を担当していた新日本有限責任監査法人は、「相当の注意を怠って重要な虚偽表示のある財務書類に対して無限定適正意見を表明していた」として、2,111百万円を国庫に納付するよう命じられました。
 公認会計士法において課徴金制度ができたのが2008年ですが、実際に課徴金納付が命じられたのは残念ながら初めてのことです。
 課徴金の算定は監査報酬に基づいています。
 重要な虚偽表示のあったとされる2012年3月期及び2013年3月期のそれぞれの監査報酬相当額1,068百万円と1,043百万円との合計が上記の課徴金2,111百万円です。
 またこれに関連して、日本公認会計士協会の会長通牒「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」(2016年1月27日)が発出されました。これは東芝を含めて昨今の度重なる会計不祥事を踏まえ、2016年3月期の監査の時期を迎えるに当たって、特に監査人が留意する下記の点を明示し、公認会計士に対して真摯に監査業務に取り組むことを強く要請しています。
・リスク・アプローチ
 重要な虚偽表示リスクの高い箇所は慎重に監査を行うこと
・懐疑心の保持
 被監査会社側の説明を鵜呑みにせず、批判的に証拠収集すること
・内部統制の無効化リスク
 経営者が内部統制を無効化している可能性に配慮すること
・会計上の見積り
 将来の損失について見積りの合理性に十分注意すること
・監査チーム内の情報共有
 メンバー内の討議を行い、それぞれの職責を果たすこと
・審査
 監査チームから独立した担当者が客観的に評価すること
・監査時間・期間
 高品質な監査のために十分な監査時間・期間を確保すること
 
 こうした「会長通牒」は、「会計士業界としての非常事態」に発出されます。以下、日本公認会計士協会のホームページに掲載されている過去の会長通牒の概要です。
 なるほど「非常事態」ばかりです。
・2011年3月30日「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」
 震災の名称はその後「東日本大震災」とされましたが、上記は当時の名称です。3月11日に発生した大地震に起因して、監査手続の制約に関して配慮すべき点が示されました。
・2008年10月28日「証券化商品等の時価の算定等に関する監査上の対応について」
 リーマン・ショック後の株価等が著しく下落している状況下で、金融資産の時価の算定に関する実務上の注意点が示されました。
・2003年2月24日「主要行の監査に対する監査人の厳正な対応について」
 当時、大手金融機関の繰延税金資産の評価が問題となり、監査法人に厳正な対応を行うよう注意を喚起しました(その後、りそな銀行が国有化されました。この点は、拙著「財務諸表監査の実務」(中央経済社2015年4月)p.278でも触れています)。

 私の記憶では、上記以外にもっと昔の会長通牒もあるはずですが、それは別の機会に紹介しようと思います。Taku