鉄塔メーカーの那須電機鉄工株式会社(東証2部)は「当社元従業員による不正行為に関するお知らせ」を公表しました。
不正実行者は、八千代工場に勤務していた事務担当者で、消耗工器具備品の購入に関して領収書を偽造して会社資金を着服し、2006年10月~2013年8月までの約7年間での着服総額は約2億円です。
「社内・社外を含め共犯者はいない」とすれば、不正実行者は、相当大胆に不正を繰り返していたことでしょう。しかし「領収書の偽造」という非常に単純な手口で、長年気がつかなかった理由が気になります。加えて、なぜ、今回発覚したのか、という点も気になります。
今回発覚した理由に、早期発見のためのヒントがあると思います。
今後は「社内調査委員会を設置し、外部専門家の協力を得て調査して」いくようですが、その調査結果の公表を待ちましょう。
さて、本件とは無関係ですが、領収書偽造による不正の話です。
領収書を経理に持参して、立替えた経費を精算するプロセスはあります。
仮に「10,000円」の領収書を「70,000円」と改竄して、収入印紙も忘れずに貼付して、消印を適当に押して経理に持って行くとどうなるか?
ウルサイ経理ならば「高いわね」と怒られそうですが、事情の知らない担当者であれば、問題なく精算されそうです。この場合、自分は10,000円しか立て替えていないのに、会社から70,000円貰うことになります。
誰もが思いつく単純な、しかし悪質な不正です。
一般的に領収書は「複写式」になっています。
お客が受け取るのは「複写された側」ですから、これを改竄するには、そのためのカーボン紙等の不正用具を持つ必要があります。これとは別に聞いた領収書の偽造の事件では、不正実行者は、様々な領収書に対応できるように、様々な種類のカーボン紙を机の中に忍ばせていたようです。
大きく水増しするとバレるでしょうが、少額な不正であり続ければ、永遠に気がつかないかもしれません。また、業務プロセスが末端になればなるほど、役員等の上層部からは目が届きにくくなります。
しかし、本件では7年間で2億円もの不正です。
不正の実行方法は上記と異なるかもしれませんが、巧妙に領収書を偽造していたとしても、「そうした不正が起こるかもしれない」という問題意識があれば、事前に防止又はもう少し早期に発見できたかもしれません。
例えば、少額な精算はやむを得ないにしても、一定額以上(一定期間内との制約も併せた方が良い)の精算は、稟議を含む事前申請とした方が良いでしょうし、事後的にでも承認を求めることも考えられます。また予算と実績との慎重な比較や、そもそも予算に不正額が織り込まれている可能性にも配慮して、慣習的になされている相対的に多額の支出について、無駄な支出がないかどうかを予算策定時に注意することも有効です。
ちなみに同社の2013年3月期の連結ベースでの財務数値は、売上は21,281百万円、税前利益が224百万円、当期純利益は73百万円でした。純資産が13,538百万円ですから、200百万円は重要性ないと判断したのでしょう。
遡及修正は行わないこととしており、2014年3月期に与える影響も軽微なようです。
なるほど遡及修正したとすれば、200百万円の不正支出は7年の各期に分散されますから、各期における重要性は乏しくなるでしょう(旧態の開示方法では「前期損益修正損」となり、200百万円が一気に特別損失となる可能性もあり、なかなか「重要性なし」で逃げられないような気もしてきます)。
加えて、他に同様の不正がなかったかどうかの検証は、なかなか困難を極めるかもしれません。
なにしろ「領収書の偽造」ですから、領収書の綴りを一つずつ見ていく作業も必要になるかもしれません。考えただけでも気が遠くなる作業です。
いずれにしても、会社にとっては、金額では計り知れない痛恨の不正だったことでしょう。
全然関係ありませんが、私は東西線をよく使います。東葉高速鉄道もよく使います。南砂町、八千代緑が丘。よく使います。
そういえば、NASUのロゴもよく見かけます。Taku