2011年12月ミネルヴァ・ホールディングス連結子会社での在庫横流し

 

ミネルヴァ・ホールディングス(JASDAQ)の連結子会社(ナチュラム・イーコマース株式会社)で社員による在庫の横流しについての開示がありました。

「在庫の横流し」は、会社の財産である棚卸商品を会社に無断で販売して、その売却代金を横領する典型的な不正の手口です。取り扱う商品が小型で持ち運び容易な場合や、簡単に資金化ができる場合に生じやすい不正です。

この事件では、ロッド(竿)やリールといった釣り具が不正の対象となったようです。

釣り具にはかなり高額なモノがあります。

不正実行者は、これらを会社から窃取して、自ら販売して金儲けをしていたようです。

同社の公表した資料によると、不正実行者は20061月~20118月の間で、153百万円相当の商品を搾取したとされています。

棚卸商品の不正防止のためには、入庫時や出庫時の数量管理の他、保管されている商品の現品視察(棚卸)といった管理体制を構築することが一般的です。また、棚卸商品は通常数量が多いため、ITシステムを利用して数量や単価の管理を行います。

この営業部長職の不正実行者は、こうした管理に対して、以下のような隠蔽工作を講ずることで不正発覚を免れていました。

 

    システムを不正操作して在庫数量のつじつま合わせをしていた。

    商品の現物がないままに虚偽の入荷処理を行っていた。

 

まず①について、不正実行者は商品を会社に無断で処分しているのですから、商品の現現品が減少していることになります。そこで不正実行者は、棚卸の際に不正が発覚しないよう、システム上の帳簿数量を操作していました。

 特に竿やリールは組み合わせて販売することが多いようで、その組合せや解放(組合せをやめて個々の竿やリールとして管理し直すこと)の際に、数量を誤魔化していたようです。本来であれば扱う商品の特徴に応じた在庫管理方法が望まれるところですが、システム上の弱点をつかれた形になりました。

 一方②について、仕入先から送付された商品を不正実行者が無断で持ち去っている場合には、会社に入荷されるはずの商品が入荷されないことになります。ところで一般の会社では、入荷されていない商品に対して支払いをしない仕組みを構築しています。これは、商品の現物を確認した上で入荷処理(いわゆる検収作業)を行い、その入荷処理済みの商品について仕入先に支払いを行う仕組みです。

 同社でも同様の仕組みがあったようですが、この不正実行者は、社内の者(不正に関与したとの認識はない模様)に対して、窃取した商品の合計金額と合致するよう虚偽の入荷処理を行わせていたようです。

この点が不正発覚を遅らせた原因にもなったようですが、商品の現物がないまま虚偽の入荷処理をすれば、窃取した商品に係る仕入先からの請求金額に対応する入荷記録を作成できますから、「入荷処理した商品について支払いを行う」ことになり、仕入先への商品代金の支払い処理の段階において、不正発覚はできなくなります。

 このように本来不正を防止・発見するために構築した内部統制という仕組みを無機能化することが行われていました。

 

<なぜ発覚しなかったのか、そして、なぜ発覚したのか>

 本件の興味深いところをもう一つ示します。

 会社側は、本件不正行為が約5年半にわたり発覚しなかったことについて、「巧妙な隠蔽工作」があったことをあげていますが、一方で、発覚に至った原因について、不正実行者が「不正操作の方法を変更したこと」をあげています。

 こうした説明を逆手に取ると、「不正実行者が不正操作の方法を変更しなければ、不正の発覚はさらに遅れていた」ことになります。

要するに不正実行者が「馬脚を現した」ということでしょうか。

 

 不正実行者は、当初「実際に販売されることはない・・・商品名を付けたセット商品」で虚偽の入荷処理を指示していたようです。この場合、当該セット商品の在庫が増加しても、不要な入荷であるとして不審を抱くような事態は起こり得なかったとされています。

 一方、変更後の手法では、「実際に・・・仕入れを行っている商品」で虚偽の入荷処理を指示していたようです。その結果、「なんでこんなに高額な商品を仕入れているのだ」「顧客からの需要を大きく越える入荷がなされているぞ」という社内の担当者の不審が社発覚の原因のようです。

 要するに、商品名の名称の問題のように見受けられます。 

 それでは、なぜ不正操作の方法を変更したのか?

この点は、不正実行者は曖昧な回答に終始しているようです。

 

不正は隠蔽工作を伴うことが一般的です。隠蔽工作は数値の意図的な変更や偏向を招きます。それらが不正の兆候となるのです。

「何でこれが増えているの?」「もっと安くても良いんじゃない?」「異常に高額だな?」

そうした「気づき」が不正発覚の糸口になるのかも知れません。