「Kanebou.For beautiful human life!」
昔、よく耳にしたキャッチ・フレーズです。
カネボウといえば、2005年に発覚した巨額の粉飾事件が記憶に新しいところです。
「循環取引(宇宙遊泳)」や「連結外し」によって、業績を嵩上げした挙げ句、同社は破綻しました。同社を監査していた4大監査法人の一つ「中央青山監査法人」が解体される要因にもなった事件で、担当の公認会計士が逮捕されたことや、当時の公認会計士協会の会長宅に家宅捜索が入ったこと等、相当にショッキングな事件でした。
その後、カネボウの化粧品部門は花王の傘下に入り、堅調に業績を伸ばしてきていました。
しかし、今回のロドデノールの白斑事件です。
10ヶ月も対策を取らずに被害を拡大させたことで、カネボウのブランドイメージの悪化は避けられないでしょう。
本件も前回に引き続き、本来、不正事例研究会で取り上げる性質の事件ではありませんが、社会に与える影響の大きさや、発覚までの経緯に学ぶべき点があるため、取り上げることとしました。
同社の公表資料では「白斑様症状の発症者被害が拡大したのは、お客様の声や専門家のご意見、社員の声を真摯に捉え、集約し、迅速に対応することができなかったことが原因」としています。様々な人の声を「真摯に捉え」ていれば、それを「集約」するでしょうし、「迅速に対応」するはずですから、最も大きな問題は「様々な人の声を真摯に捉えていなかった」ことでしょう。
では、なぜカネボウは、様々な人の声を真摯に捉えなかったのでしょうか?
第三者委員会の調査報告書では、その原因と考えられる以下の記述があります。
「厚生労働省の承認を得るための厳格なテストを通過して白斑出現の可能性はないと確信していた」
「当時(症状の発現時期)は、未だ症例はきわめて少なく、医師の診断結果においてロドデノールとの因果関係を窺わせるような所見も顕れていなかった」
「『白斑は病気である』という思い込みがあり、『化粧品によって白斑が生じることはまずない』との知見がある」
要するに、「化粧品を使って白斑ができるはずがない」と信じて疑わなかった訳です。
一方で、被害者の方々にとっては気の毒ですが、上記は症例が出始めて直ちに商品回収としなかったことについて、一定の合理性を与えていると考えます。
しかし、問題はその後です。
その後も数多くの症状の発現が報告されるのですが、上記の「思い込み」から、適切な対応が取られないまま被害者が増加し続けてしますのです。第三者委員会の報告書が最も問題視しているのは、2012年9月4日(カネボウが自主回収を発表した2013年7月4日の10ヶ月前)の医者の診断結果です。
この診断結果は、「ロドデノールがトリガーとなった白斑を引きおこすことがあり得ること」を示すもので、これを本社担当部署が認識したのですから、早急に商品回収等の対策を講ずるべきだったといえるでしょう。
下記が同報告書の会社の体質について、最も注目すべき記述であり「ごもっとも」と評価したい表現です。
「都合の悪いことについては突っ込まないで無視しようとする態度が顕れている」
約1万人の方に症状が出たとされる本事件、もっと早くに対応していれば、被害者の数は抑えられたはずですし、不正事例研究会が扱う不正についても同様のことが言えるでしょう。
「都合の悪いことについては突っ込まないで無視しようとする態度」が、多くの不正の発覚を遅らせる原因になっています。「仮に、本当にそうだとすると、大変なことになる」という危機感は、現実から目を背ける理由にはなりません。
そういえば20年ほど昔、とある勉強会で原子力発電所の仕組みについて教えてもらった際、「もし事故が起きたら大変ですね?」と質問したところ、講師の方にこう言われました。
「間の抜けた質問はしないで下さい。原子力発電所は安全ですから、事故が起こるはずはないのです。」
これも「都合の悪いことについては突っ込まないで無視しようとする態度」の一つと言えるでしょう。
化粧品会社の皮膚障害。
原子力発電所のメルトダウン。
あるまじきことが起こってしまうのです。
これを機に会社の最も大きなビジネスリスクは何かを考えて下さい。
その上で、そのリスクが現実のものになったらどうなるのかも考えて下さい。
「まさか、そんなことは起きるはずはないよ」
いやいや。
それでは上記の会社と同じではないですか?Taku