2014年1月 質問という監査手続 その1

 去年のはじめ(20131月)に「嘘を見抜く方法」という記事を書きました。

 これに関連して、「質問」について考えてみたいと思います。

「監査」(Audit)はラテン語の「Audio」を語源として、「質問」という監査手続は基本とされます。他人に質問をして回答を求めるという行為は、人間の情報収集のための基本的な手段なのです。

一般的に監査では、下記のプロセス(①質問→②回答→③根拠提示依頼)で作業が進みます。

 質問者「①なぜこれが増加しているのですか」

 回答者「②それは○○があったためでしょう」

 質問者「③それでは、その根拠資料を見せてください」

 質問者は回答者の回答について「本当か?」という疑念を抱きつつ上記③を行います。

回答者が質問者を欺こうという意図がある場合には、③の資料を偽造する場合があります。しかし、たとえ巧妙な偽造が伴っていたとしても、回答者が「嘘」をついている以上、質問結果に関して質問者が何らかの「兆候」を感じ取る場合があります。世の中には平気で「嘘」をつく人もいますが、現実問題として、質問の結果「怪しい」という質問者の直感を端緒として、多くの不正が発覚していることも事実なのです。

そこで以下では、質問をする場合の注意点について、いくつか紹介したいと思います。

 

・回答者の目を見ること

先述の「嘘を見抜く方法」でも紹介しましたが、人は嘘をつく場合、目の動きの他、不自然な動きが伴うことが多いようです。質問者は(威圧感を与えない程度に)回答者の目を見ながら回答を求めた方がよいでしょう。

・書き留めること

 質問が多岐にわたる場合には、回答の正確性を担保するため、メモに書き留める必要があります。質問者がメモを取ることで、回答者には「正確に答えなければならない」という心理的な牽制が働く場合があります。一方で強権的な調査であるかのような圧力を与える場合もありますから注意が必要です。

・ラポールの確立

 ラポールは心理学用語ですが、質問者と回答者との間の相互信頼に基づく協和や調和を意味します。質問者の無礼・無用な質問や、あらぬ嫌疑をかける質問により、回答者は敵対心を抱きかねません。質問する場合には、相手の感情を害さないような配慮が必要です。そのためには、詳細な質問に入る前、例えば以下のように回答者が「はい」で応える質問を行った方が良い、とされます。「寒いですね。」「年末はどこも込んでますね。」という話です(やりすぎると「本題はまだか?」と思われ、逆効果となるので注意が必要です)。

・質問の方法

 様々な質問方法(これは次回のテーマとします。)がありますが、最も基本的な区分は「閉ざされた質問」と「開かれた質問」です。前者は「はい・いいえ」で答えられる質問で、例えば「それは月曜日でしたか?」「場所は会議室ですか?」といった端的な回答を求める質問です。一方、後者は「~について知っていることを話してください」といった質問です。

多くの情報を収集するためには回答者に自由に話してもらう「開かれた質問」を使いますが、逆に回答者が回答に窮したり、的を射ない回答となったりする可能性もあります。また、閉ざされた質問は、回答者は回答しやすいですが、短時間に多用すると詰問調になりかねませんので、注意が必要です。

・質問をする場合の距離感

ここでいう距離感には物理的な面と心理的な面とがあります。

物理的な距離感としては、質問者と回答者との間には1メートル~2メートル程度の距離が通常でしょう。3メートル以上離れると、会話が成立しにくい距離となり、逆に1メートル未満とすると至近距離からの質問となり、回答者に不快感を与えます。

また、心理的な距離感としては、言葉遣いや間合い・会話のスピードや態度等が関係します。友達同士で使うフランクなしゃべり方をした場合、回答者は抵抗感を示すかもしれませんし、逆に通常よりも畏まって質問すれば、回答者側も神経をとがらせる可能性があります。これは上述のラポールにも関連するでしょうが、回答者の回答しやすい雰囲気を質問者が作ることも重要です。

・複数の回答者に注意

一般の情報収集のための質問であれば、同時に二人以上に質問をしても特に問題はありませんが、不正が疑われる場合のインタビューに際しては、同時に二人以上に対して行わないことが肝要です。なぜなら、一人の証言がもう一方の証言に影響を及ぼす可能性があるためです。関係者が複数いる場合には、別々にインタビューし、相互に矛盾する点を解消することも、不正発見のための重要な手法です。

次回は「質問の種類」についてまとめてみようと思います。Taku